結局、R-1乳酸菌は健康に良いのか?研究データの解釈の仕方。感冒とインフルエンザ感染リスク
Canteenです。
ネットの記事を見ていると、乳酸菌は体にいいとか、タンパク質を取らないほうが健康に良いとか、いろいろな健康に関わるニュースや記事があります。
しかし、それらの多くは結果を過大評価しているものがほとんどです。
健康志向の人の間でヒットしている商品の1つに「明治プロピオヨーグルトR-1」があります。強さを引き出す乳酸菌とのキャッチフレーズですが、実際のところ本当に健康に良いのでしょうか。明治がいくつかそれを証明するための臨床試験というものを実施しています。その試験の中で感冒とインフルエンザへの罹患について焦点を当てて研究が行われています。
大ヒットしているR-1乳酸菌の研究結果を確認しながら、実際のところ、R-1は健康に良いのか、風邪やインフルエンザにかかりにくくなるのかを研究結果から考察してみます。
R-1乳酸菌を摂取すると健康になるのか
結論から言うと『わからない』ということになります。
なぜかと言うと、『健康』であるということは漠然としていて、何をもって健康と呼ぶか、どのようにすれば健康になったといえるのか、評価が困難であるためです。
しかしながら、明治では風邪やインフルエンザに焦点をあてて、下記のリンクにあるように複数の臨床試験(健康な方や患者さんを対象とした試験)を実施しています。
そのため、R-1で風邪をひきにくくなるのか、インフルエンザにかかりにくくなるのかということについては議論できそうです。明治がヒトを対象に実施した臨床試験の結果をもとに、それぞれ妥当性について確認していきましょう。
R-1を飲むと風邪をひきにくくなるのか
明治が実施しているR-1が風邪引くリスクを下げるという研究があります。
この研究を簡単にご説明しますと、「高齢者の方にR-1または牛乳を8週間または12週間摂取してもらって、その間に風邪(感冒)またはインフルエンザに罹患したかどうか調べる」という試験です。
この研究の結果について明治のホームページによると「風邪罹患リスクの低下が認められた」というように記載があります。
この研究の結果を否定するものではありませんが、この試験結果を解釈する上で注意が必要なのは、盲検化がなされていないことです。
どういうことかと言いますと、被験者の方は自分が『R-1』を摂取するグループか、『牛乳』を摂取するグループかを知った状態で試験に望んでいます。つまり、R-1の効果を調べる試験だと聞かされた上で試験に望んだ被験者の中には、当然『R-1』を飲んでいる方が効果があるのではないかといった先入観をもって試験に参加してしまうリスクがあります。これでは試験結果にバイアスがかかる恐れがあります。
これを避けるためには、味や見た目、匂い等から区別のつかない、R-1ドリンクにそっくりなドリンク(プラセボ;R-1乳酸菌を含んでいない)を用意しておいて、1つのグループには乳酸菌入りのR-1ドリンクを、もう一方のグループには乳酸菌の含まれていないR-1そっくりドリンクを服用するといった方法が考えられます。二重盲検比較試験と呼ばれる手法です。
これらを踏まえると、「R-1を飲むと風邪をひきにくくなるかもしれない」ということは言えるかもしれません。ただ、二重盲検試験ではないためにエビデンスレベルが低いことから、この非盲検試験だけでは結論を導くことはできません。
R-1を飲むとインフルエンザにかかりにくくなるのか
先程の風邪の例では、盲検化がなされていないという課題がありましたが、今度のインフルエンザの臨床試験では、しっかり盲検化がなされています。期待が持てますね。
インフルエンザについて調べた研究は、簡単にご説明しますと「高齢者の方に自分が飲んだR-1が本物か偽物(プラセボ)か見分けがつかない状態で、12週間毎日R-1を飲んでもらい、インフルエンザA(H3N2)亜型に反応する唾液中IgAの量を調べた」という研究です。ただ、論文が有料だったので中身全部を見れませんでしたので、その点ご容赦いただければと思います。
試験の結果、本物のR-1を飲んだ人は偽物を飲んだ人に比べて、インフルエンザA(H3N2)亜型に反応する唾液中IgAの量が増えました。
この研究結果にはバイアスはかかっていませんので、信頼性のある結果と言えると思います。
ただ、あくまでIgAの量が増えたということであって、インフルエンザの感染リスクが下がったことを直接証明しているわけではないことに結果を解釈する上で注意が必要です。本当に知りたいことはインフルエンザにかかる確率が下がることだと思いますが、その点は評価されていません。このIgA増加の程度がインフルエンザの感染を大きく抑えるほどに増加しているかは、わかりません。
とは言いつつも、インフルエンザA(H3N2)亜型に反応する唾液中IgAの量が増えたということは、「インフルエンザに感染するリスクが下がる可能性がある」ということは言えると思います。
なぜ、インフルエンザに感染するリスクについて評価していないかと言うと、おそらくはそれを証明することが費用的に難しいからだと考えられます。より多くの被験者数で臨床試験を実施すればそれだけ本物と偽物(プラセボ)の有効性の差を示しやすくなりますが、その分お金もかかります。直接証明するためには、何百人か何千人かの参加者を募って、R-1を飲んだ人と偽物(プラセボ)を飲んだ人の間でインフルエンザの罹患率に差があったかどうかを確認する必要があります。この試験は大勢のの参加者がいないと、そもそもインフルエンザへの感染者数が少なすぎて、有効性の比較が困難です。
まとめ
以上、R-1ドリンクの効果について研究結果から考察してみましたが、「R-1を8週間以上毎日飲めば、感冒やインフルエンザの感染リスクを下げるかもしれない」ということは言えそうです。ただ、いずれもはっきりした証明はできていませんので、「かもしれない」としか言えません。
今ひとつ煮え切らないですね。より信頼性のある臨床試験の結果が待たれます。
腸内細菌によって人間の体の免疫機能が仮に向上し、かつ安価な食品にてそれを達成することができれば、かなり画期的なことだと思います。引き続き、腸内細菌の人間の体への影響について注目していきたいですね。
R-1が結局効くのか、効かないのかを知りたい方の悩みが深まったかもしれませんが、科学的にデータを解釈する一助になれば幸いです。